法人研修事例 | 利用者インタビュー

2030年代を見据えたSUBARUの技術者育成

Workshop for Subaru

株式会社SUBARUは、自動運転の基礎から車両制御・パワートレイン制御へのAI応用までをカバーするVML年間研修を導入しています。本記事では、導入の背景と効果、現場での活用実感について、担当の高田氏に伺いました。

株式会社SUBARU

株式会社SUBARU 様

https://www.subaru.co.jp

取材協力:高田 知洋氏

技術本部 車両環境開発部 走行性能開発第五課 課長

  • 研修形式: 研修ワークショップ+eラーニング+社内レース大会 (年間研修)
  • 学習テーマ: 自動運転・車両及びパワートレイン制御へのAI応用

研修導入の背景

― VMLにご興味を持っていただいたきっかけは何ですか?

名古屋で開催されたVMLセミナーに参加したのがきっかけです。

興味を持った理由は2つあって、ひとつは強化学習。開発現場でもAIを使おうという話が出ている中で、強化学習はあまり使い勝手が良くないというか、どういう風に使うのが良いのかイメージしづらいものでした。それがうまく扱われていて、シミュレーターでの車両走行を通して収束していく姿が可視化されているというのが、非常に興味深いなと思ったのが1点目です。

2点目は、題材が「車×レース」であること。自動車業界の人間って、やっぱり「車が車として動いてほしい」っていうこだわりがあるんです。例えば、水の温度とか蛇口の制御など、抽象的な題材だと興味が湧かない人たちが多いです。VMLの場合は目に見えてリアルタイムで車が動くというのがよいなと思いました。自分だけが体験して終わりにするのはもったいない。何とか会社に持ち帰って他メンバーにも体験させようと思ったのがきっかけですね。

― うれしいです。VMLの学習コンテンツは「車両を走行させながら学べること」を意識しています。

制御理論は全般的に抽象度の高い学問です。自動車業界の技術者が苦手な領域でもありますが、自動車開発の現場ではOJTやサポートツールもあるので、制御の背景や限界をあまり理解していなくても業務ができてしまう。その結果、知見も乏しくなっている。このあたりはチームをまとめる課長として危機感を感じます。

現場の実装と各技術者の知見の「乖離」をどう埋めるのか。VMLは、そこをうまく橋渡しする形で設計されていると感じました。

部署と受講メンバーの専門性

― 研修を受講していただいている部署やメンバーの専門性についても教えてください。自動運転そのものが主務、というわけではないですよね?

そうですね。我々の部署で主に扱っているのは、ハイブリッドの走行制御です。モーター、バッテリー、エンジンの3つを「DJのフェーダー」みたいに動かして、発電量やバッテリー受け入れ、回生、車速や減速度のバランスをとる。ハードウェアの限界も考慮する必要があります。各部門と協調しながらハイブリッドの統合制御を作っているイメージです。

― 自動運転や運転支援との関わりはありますか?

先進安全なども密接に関係しています。例えばACCで動いているとき、アイサイトの指示をもとに、アクセル側のトルク指令をこちらで受けたりする「つなぎ役」として、ハイブリッド制御は動作します。そのため、現在受講している内容も日々の業務で扱っています。

一方で、裏で使っている仕組みを学ぶ機会は限られています。このような箇所でイメージをつけるのにも、VMLの研修はとても貢献してくれています。

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研修受講中のメンバー

受講満足度と実務への貢献

― 受講していただいての満足度や、実務への関わりはどうでしょうか?

短期的には、これだけWaymoやTeslaの話が盛り上がっている中で、自動運転というものが身近に感じられるし、操舵とアクセルだけでも自動運転を開発する感動を体験できるコンテンツだと思っています。機械学習やGPS/IMU、センサフュージョンのような技術や、最近の自動運転トレンドに関して、手軽に教養を得ることができて、しかも手を動かす開発体験ができるのは非常によいものだと考えています。

さらに、コンテンツ的にも「答えがあるものを作る」というより、「オリジナルで開発してレースで競わせる」となると、教科書的な学びより圧倒的に肌感覚として理解が深まります。

― 中長期的な視点ではどうでしょうか?

2030年代を見据えると、運転席基準の開発から「全席基準 (自動運転前提) 」の世界に軸足が移ります。そうなると、エンジンやハイブリッドなど既存パワートレイン技術そのものだけを理解しているのでは不十分です。自動運転技術をある程度は理解したうえで、パワートレインを作り込むならどうするかを考えないといけません。

自動運転が前提の「全席基準」なら、例えば高速道路のパターンとしては左車線をずっと走行して、始点と終点の時間を目標値にした速度制御でよいはずです。あとは、エネルギー目線だとできるだけ効率的に回生したいので、始点と終点の位置エネルギーも考慮して回生ポイントを決めるなどのエネルギー最適化が必要になります。従来の「運転席基準」なら車両をかっ飛ばして気持ちよく走行させることも重要ですが、これは「全席基準」とはまったく異なる前提の開発だという認識も必要です。

自動車メーカーのクルマ好きの中には、自動運転はつまらないという印象を持っている人も多いです。しかし、これまでの自動車開発の前提が変わってしまう危機感を持つことは大事で、そこがこれからの時代のエンジニアが追求すべき技術だと思っています。

おすすめポイントと対象者

― どんな方や組織におすすめできますか?

VMLのよいところは、没入感がありつつ、シミュレーターを活用するため絶対に安全だということです。車両制御を学ぶうえでパラメータ設定も大きく変更してもよいし、発散領域に入っても問題ないわけです。 実際の自動車開発のリアルな現場で、同じようなことをやると大変です。責任問題になってしまう。量産開発の現場には越えてはいけないラインが存在しています。本当はこれを飛び越えたらどうなるのだろうと思っても、開発者は挑戦する機会がどうしても限定されて、狭い世界で開発しています。そこの、なんというか、窮屈さを感じている人はすごくおすすめしたいですよね。

センサー・アクチュエーター・制御対象があれば適用できる話ばかりなので、制御系エンジニア全般に有効だと思います。あくまでも制御対象がクルマの操舵とアクセルというだけで、制御理論をメインにすれば応用できる範囲は広いです。

まとめ|2030年代の「全席基準」に備える人材育成

― 今日はお話をありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。

「自動運転」というキーワードを聞くと、それ以外の技術者は自分の専門性とは関係ないと思ってしまうかもしれません。ただ、2030年代の「全席基準 (自動運転) 」を前提とすると、各領域でテクノロジーの不連続な変化を受け止められるエンジニアが必要です。

そこに年齢はあまり関係なく「先に飛び込んだか」だけが大切で、飛び込んだ人が主役になれます。だから僕らは普段の業務と並行してVMLも活用しているし、優先的に学ばないといけないと思っています。

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